四国がんセンター

名誉院長エッセイ<季刊>患者の言い分、医者の言い分

医者のひとりごと その九:2005年10月号

インフォームドコンセントっていったい…

手術前のインフォームドコンセントのなかで、手術の合併症のお話をします。合併症とはつまり、手術した後に起こってくるおそれのあること、まぁ、手術の副作用みたいなものと理解してください。たとえば、出血とか腸閉塞、肺炎などです。そうそう、この肺炎ってやつは、たばこを吸っていることと大いに関係があるのです。がんの手術はほとんどの場合全身麻酔でするのですが、たばこを現に吸っている人は、術後に肺炎にかかってしんどい思いをすることがけっこうあります。ただでさえしんどい術後に、ますますつらい思いをすることになります。手術の前には絶対たばこをやめるように言うのですが、これがなかなか守られません。ある患者さんに、「たばこはやめましたね。」と聞くと、「はい、すっていません。」と、頼もしい答えが返ってきました。が、「ほんとですか?」と聞くと、「はい、言われたとおり病院では吸っていませんよ。」「えっ、じゃ、家では吸っていたの?」どうやら外泊中途か外出中には吸っていたらしい…きっちり?術後に肺炎にかかりました。ちゃんと治療でよくなりましたけれど…

時間がかかる…

手術のお話のときは、手術そのもののお話よりもこの合併症のお話の方が長くなることが多いですね。わたしの専門分野が食道がんや胃がんですから、おなかの中に関することでは、縫合不全(縫ったところがうまくくっつかないことです)とか、先ほど書きました出血、腸閉塞、それと膵炎なんかがありますね。おなかとは関係ないところにも合併症がおこることがあります。さきほどの肺炎とか、アレルギー、、肺梗塞、心筋梗塞、脳梗塞などです。その時どう治療するかを一緒にお話しします。起こっても、乗り越えて治っていくのですが、お話しておかないと、もし起こった時に、ご本人やご家族はとまどうでしょうね。だからこそお話をしておくのですよ。手術の話だけでも不安でいっぱいなのに、この医者は心配の種ばかりまきやがるなんて思わないでくださいね。これも病気を一緒に治していくための一手段なのですから。

患者さんに救われる

そういえばこんなことがあったなぁ。食道がんの方でした。手術は順調に運んで病棟へ帰ってきました。ところが、翌日から下痢が始まったのです。けっこう頑固な下痢でした。この時期に下痢が起こると言うことは異常です。特殊な細菌がいるに違いないと考え、検査しました。案の定、その細菌がみつかり治療を始めました。結局は治ったのですが、下痢が始まった時に奥さんが言った言葉を今でも忘れることができません。「先生!腸をつなぎまちがえたんじゃないの!?」この方の場合、ご自分が持っていた特殊なタイプの細菌が、手術のストレスをきっかけとして勢いづいて下痢になったのですが、どうやら奥さんには手術がよくなかったとしか思えなかったようです。ちょっとかちんときましたね。でも、もちろん、抑えて、抑えて…自分に言い聞かせました。よこう考えてごらん。奥さんが、いかに一生懸命なのかわかるだろう。でも、やっぱ失礼だよなぁ…(・へ・)

がんばる

救いは、その患者さん自身がわたしを信じていてくださったことでした。説明をよく理解され、治療を信頼してくださっていたからこそ早く治すことができたのだと思っています。その方は、手術の後もご自分の体調をほんとに細かく分析し、外来でよく話してくださいました。・・・ううむ、ちょっと神経質すぎるかな・・食道がんの手術の後は、必ず激やせします。「手術のせいですよ。病気の再発とは関係ないですよ。あまり気にかけないことがだいじですよ。」1年半ほどたった頃でした。「先生、太ることはあきらめました。この自分を受け入れます。」そのときからです。明るくなりましたね。今もとてもお元気で、いや、それなりにお元気でお仕事をなさっています。病気に打ち勝つには、心が大きな大きなウェイトを占めているのですね。

栗田 啓