四国がんセンター

名誉院長エッセイ<季刊>患者の言い分、医者の言い分

医者のひとりごと その七:2005年04月号

インフォームドコンセントっていったい…

私たちの病院では、まず100%の患者さんががんの告知を受けておられます。がんの状態をお話しするときに、進み具合を「病期」という言葉で表してお話しすることがあります。Ⅰ(1)期から始まって、Ⅱ(2)期、Ⅲ(3)期、Ⅳ(4)期、中にはⅤ(5)期までに分けているがんもあります。もちろん、数が大きくなるに従って治りにくくなるのですが、私自身は、何パーセントの可能性を持って治るなどといった具体的な数字をあげることはほとんどしていません。まず治りますよとか、治る可能性がずいぶん高いですよとか、厳しいですねとか言った表現をしています。その人にとっては、生きるか死ぬかであって、それを数字で区切ってしまうと、あまりにクールすぎるような気がしてのことなのですが、独りよがりの考えかもしれませんね。でも、患者さんの中には、何パーセントの可能性があるのですかと迫ってくる方がいらっしゃいます。ちゃんとした数字がありますからそのときはお答えしています。知らないわけではないのですよ、念のため。

時間がかかる…

がんはあっという間に人の命を奪うことがある反面、その経過にはずいぶんと時間がかかることがあります。前者の代表にある種の肺がんがあります。外科手術もお手上げで、数年前までは、治ってしまうことがまずなかったのです。ところが、最近では抗がん剤の進歩によって、治る可能性が出てきたのです。それも、年を追うごとに可能性が高くなってきています。さらによくなっていくことが期待されています。がんの治療が確かなものになるのには時間がかかるのです。これは、たくさんの患者さんが参加してくださる「治験」「臨床試験」が積み重ねてきたたまものなんですよ。ありがたいことです。さて、さて、後者の代表はある種の前立腺がんにあります。中には急な経過をたどるものもありますが、がんを治療しなくても天命(がんがなかったとした時のその人の寿命と考えてください)をまっとうすることもあるのです。このようなものは、治療すること自体が罪悪かもしれませんよね。でも、わたしの専門外なのでここらあたりまでにしておきましょう。ぼろが出そうです。詳しくは泌尿器科のドクターに聞いてください。

患者さんに救われる

手術を受け、退院して、そして社会復帰されます。仕事を持っていた人なら、多くの方は元の仕事にもどるのですが、この時期というものの個人差がとても大きいのです。わたし自身は、生きている限りこの世に何かの形で貢献しなくては、という考えなので、できるだけ患者さんにも「早く仕事につかれてはどうですか。」とおすすめするのです。もちろん、手術の大きさによる体への負担は頭に入れますよ。最近の方は、手術後1、2ヶ月のうちに仕事に復帰される方がほとんどになりました。早い方は手術後3週間ほどで仕事復帰されました。よく覚えています。5人いらっしゃいます。デスクワークあり、体を張る仕事ありです。そんなとき、思わず外来で叫んでしまいます。「えらいっ!」
ところが腰の重い方もいらっしゃいます。半年ぐらい仕事を休む方もいらっしゃいます。治り方には個人差があることと、病気の進み具合にも個人差があるので同じようにはいきません。歩みがゆっくりした人もいるんです。よおくわかっていますよ。気長に待ちますからね。

がんばる

さきほど、急な経過で人の命を奪うがんのことを書きましたね。四国がんセンターの方ではないのですが、北海道のある病院に20歳代の、骨肉腫と言う、骨のがんの患者さんがいらっしゃいました。このがんは、多くは足とか手とかの長い骨にできるのですが、背中の骨にできた珍しいタイプでした。手術ができなくて、抗がん剤の治療を頑張って受けられました。一時期は検査でわからないほどに小さくなったのですが、ほどなく再発してしまったのです。再発してからも、別の種類の抗がん剤による治療を受けられました。この種のがんに対する抗がん剤の治療は副作用との戦いですから、辛かったでしょうね。彼女のそばにはおかあさんがいつもいて、一緒に笑い、泣き、見守り、励まして、二人で戦っているようなものでした。よっぽど辛かったのでしょうね。ある日お母さんに言ったそうです。「ごめんなさい、おかあさん。わたし、もうがんばれない。」この一言にすべてが凝縮されていると思いませんか。しばらく涙が止まりませんでした。今の医療は、彼女とお母さんのような、辛い思いをした人たちの上に成り立っていることを私たちは肝に銘じておかなくてはなりません。

栗田 啓