前立腺がんにおける少線源療法について
前立腺がんに対するヨウ素125線源を用いた小線源療法(ブラキセラピー)
はじめに
ヨウ素125(I−125)の永久留置による小線源療法(ブラキセラピー)は、前立腺がんに対する放射線治療として、アメリカでは15年以上前より行われており、一般的な治療として既に確立されています。最近ではアメリカで年間50,000人以上がこの治療を受けており、この数は手術(前立腺全摘除術)を受ける人とほぼ同数です。この治療は限局性の前立腺がん(早期がん)においてのみ施行可能です。比較的侵襲が少なく、安全で有効な治療法であることはアメリカで実証されていますが、放射線治療の一種である以上、放射線による副作用が全くないわけではありません。また、治療効果も手術とほぼ同等と考えられています。
日本では2003年3月にようやくヨウ素125線源の永久留置が医療法上認可され、2003年7月からこの治療が施行可能になりました。現在、日本では全国の約10施設でこの治療が施行されています。当院では泌尿器科、放射線科が全面的に協力し、十分な準備のうえ、この新しい治療を開始するに至りました。
小線源療法(ブラキセラピー)とは
小線源療法とは小さな放射性物質を治療する臓器(ここでは前立腺)に挿入して行う放射線治療です。前立腺がんではヨウ素125(I−125)を封入したシード(下図)を前立腺に永久的に挿入します。
小線源療法の長所
1)安定した照射野が得られる
前立腺は腸管の動きや膀胱内の尿量によって位置が変化し、一般に1-2㎝は移動します。外照射の場合は照射位置を決定するとそこに照射を繰り返しますので、照射野が前立腺から少しずれる可能性があります。小線源療法の場合には線源が前立腺内にあるため、確実に前立腺内に照射が行われます。
2)放射線障害がおこりにくい(副作用が少ない)
外照射の場合は、体の外から患部に放射線を照射するため強いエネルギーでの照射が必要となります。そのため、前立腺の周囲の組織にも放射線がかかり、放射線に弱い直腸や膀胱粘膜、皮膚などで放射線障害が起こることがあります。ところが、小線源療法では、線源であるヨウ素125のエネルギーが弱いため、前立腺内には十分な量の照射が可能ですが、前立腺周囲への照射量は少なく抑えられます。そのため、皮膚への影響はほとんどなく、直腸や膀胱での放射線障害が起こる可能性も低く、これがこの治療の大きな利点です。
3)尿失禁が少なく性機能が維持されやすい
前立腺がんの治療の一つの課題は、いかに尿失禁を起こさず、性機能(勃起能)を維持してQOL(生活の質)を低下させないようにするかということにあります。小線源療法では、治療直後の尿失禁はほとんどなく、長期間の経過観察でまれに生じる程度です。
性機能に関しても、この小線源療法が最も成績が良く、5年後に性機能が維持される率は7-8割と報告されています。ちなみにホルモン療法では性機能はほとんどの場合に失われますし、手術において神経温存手術を試みても性機能が保たれる率は5〜6割程度といわれています。また、放射線の外照射の場合でも性機能が保たれる率は6割程度といわれています。
4)入院・治療期間が短い
小線源療法は、後述するような手術手技や半身麻酔が必要で、体に全く負担がないわけではありませんが、手術と比較するとかなり負担の少ない治療法です。入院期間は4〜5日必要となりますが、手術よりはるかに短いものです。外照射の場合は、7〜8週間におよぶ連日の通院治療が必要です。いずれにしても、小線源療法は入院が必要ですが、短い治療期間ですむ治療法です。
小線源療法の短所
1)すべての前立腺がんには行えません
- 前立腺に限局した浸潤・転移のない症例にのみ可能です
- 再発例は適応になりません
- その他、治療ができないもの
- 過去に前立腺の手術を行っている場合。
- 前立腺が極端に大きい場合(40cc以上の場合)。ただし、ホルモン治療で40cc以下まで縮小した場合は可能です。
- 排尿障害のひどい場合(尿がつまる可能性があります)。
- 下肢の開脚や挙上などの体位がとれない場合。
- 骨盤部への放射線治療の既往がある場合。
- 前立腺結石が著しく、線源の挿入が困難と判断された場合。
- アスピリンやワーファリンなど出血傾向をまねく薬剤を使用して、一定の期間その薬剤を中止できない場合。
その他、当院において本治療の適応でないと判断された場合
2)放射線障害
小線源療法はあくまで放射線治療の一つであるので、外照射に比較すると放射線障害は生じにくいものの、直腸、膀胱、尿道への影響はないわけではありません。直腸での障害としては、直腸粘膜にびらん(ただれ)が生じ、ひどい場合には潰瘍や膿瘍が形成されることがあります。
海外では、人工肛門を造設した例も稀に報告されています。膀胱の障害としては、膀胱の粘膜が炎症を起こし、膀胱炎様症状を呈することがあります。また、尿道の炎症が強い場合には尿道狭窄が起こることがあります。
これらの障害が発生するかどうかや程度の差は個人の放射線に対する感受性の相違によって起こります。
治療までの流れ
1)初診から治療の決定まで
他施設で生検を受けられ、前立腺がんの診断がついた方は初診時に来院までのデータ(可能な限り紹介状)をお持ち下さい。必要な情報は下記の通りです。
- 現在服用中の薬(アスピリンやワーファリンなど出血傾向をまねく薬剤は治療の前後1-2週間ほど休薬が必要です)
- 可能ならばレントゲン写真
- 生検の病理標本(必ず当院の病理医で確認させていただきます)
これらのデータをもとに、この治療法が可能かどうかが決定されます。その後、患者さまにこの治療を受けられるかどうかを決心していただくことになります。
2)治療前のプランニング(照射計画)
治療日の3〜4週前に必ず来院していただき、治療のためのプランニング(照射計画)を行います。具体的には、治療時と同じ体位をとり、尿道カテーテルを挿入後、経直腸エコーで前立腺の形態を三次元的に解析してコンピューターに取り込みます。このデータをもとに線源の配置および使用線源数を決定します。
治療の実際
- 麻酔は基本的に腰椎麻酔
肛門からエコーを挿入し、エコーを見ながら会陰部からアプリケーター針とよばれる針を20本ほど挿入し、コンピューターで計算した通りに線源を計50〜100個留置します。- 治療時間:約1.5〜2時間
治療の合併症
- 排尿困難:
頻繁に認められる症状で、術後7-10日ごろから出現することもあります。症状が強くでる場合では尿が自力ででなくなるようなことがあります(尿閉)。前立腺肥大症の治療薬である、尿道での尿の抵抗を抑える薬(αブロッカー)を内服していただきます。 - 直腸出血、潰瘍:術後6-18ヶ月で出現することが多く、非常に稀ですが人工肛門造設の可能性もあります。
- 性機能障害:
約4.-21%の頻度で認められますが、他の治療よりは明らかに優れています。 - その他、血尿(ほぼ100%)、血精液症、頻尿、尿意切迫、尿道狭窄、尿路感染,会陰痛の可能性があります。
治療後の注意事項
1)前立腺に埋め込んだ線源は放射線を出しますが、ほとんどは前立腺に吸収されてしまいます。尿、便、汗、唾液などの分泌物にも放射能はありません。周囲の方に与える放射線量は人が自然に受けている放射線よりも低いことがわかっています。
しかし、一定の期間は周囲の方への配慮が必要です。小さいお子様を長時間ひざに抱いたり、妊婦との長時間の接触は避けて下さい。
ただし、線源による外部への被爆はほとんど問題にならないため、同室での就寝や団欒(だんらん)は問題ありません。術後60日で放射能は半減しており、1年たてば周囲への影響を気にする必要はなくなります。
2)性交は術後4週間以降で可能です。
ただし、精液中に線源がでてくる可能性があるため、術後1年間はコンドームを使うようにしましょう。
3)治療後1年間は「治療カード」を携帯して下さい。飛行機での金属探知器に問題ありません。
また、1年以内に何らかの手術が行われる場合には、手術を担当する医師から当院の担当医に連絡するようお願いして下さい。
また、線源留置後1年以内に何らかの原因で死亡された場合には、解剖して前立腺を摘出する必要がありますので、家族の方は担当医に必ずご連絡下さい。
費用
治療費は線源代を含めすべて保険の適応になりますが、個室料金は自費になります。この治療の場合には個室を必ず使用する必要があります。
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