四国がんセンター:医療関係者の方へ

Special recommended references for oncologists

米国における肝細胞がんサーベイランスの有効性

米国における肝細胞がんサーベイランスの有効性

米国の在郷軍人病院ネットワークを利用して、肝細胞がん診断前2年のカルテ調査から肝硬変サーベイランスのインパクトを調べました。対象は887例でHCV陽性が78%で、サーベイランスは全体の46%が受けていました。サーベイランスあり群はなし群に比べて早期例割合、根治的治療割合がともに高く、サーベイランスによる死亡リスク減少は38%と顕著でしたが、病期と治療法を補正すると20%で有意差はぎりぎり(95%信頼区間:0.69-0.94)でした。
著者らはさらに拡大したコホートの中から、肝細胞がんを自然経過した518例を同定して早期発見根治治療の上乗せを除いたサーベイランスそのもののインパクトを調べています(Khalaf N, et al.Clin Gastroenterol Hepatol 2016 Aug 10)。In pressで抄録のみなので今回詳細は紹介はしませんが、「抗癌治療なし」だとサーベイランスがあってもなくても早期例なら生存期間に差はなく(BCLC病期0/A:10.3ヶ月vs. 10.5ヶ月)、進行例でもその差はわずかに2ヶ月(5.2ヶ月vs. 3.4ヶ月)でした。サーベイランスの有用性は、サーベイランスそのもののリードタイム効果ではなくて、より早期にみつけたときの根治治療のインパクトにあるということなのでしょう。逆に云うと早期発見や根治治療のできない地域や国ではサーベイランスの意義は乏しいということでしょうか。

2016年9月5日  石井 浩

FOLFOXかソラフェニブか:肝細胞がん化学療法費用対効果分析

FOLFOXかソラフェニブか:肝細胞がん化学療法費用対効果分析

肝細胞がんに対する標準的な化学療法はソラフェニブです。その前はドキソルビシンが暫定標準でした。FOLFOXはソラフェニブ登場以前に当時の標準ドキソルビシンとアジアで大規模な第Ⅲ相試験(EACH試験:http://jco.ascopubs.org/content/31/28/3501)で比較され、残念ながらドキソルビシンに有意な生存期間延長を示せませんでした。
今回の論文は四川大学の医療統計家の先生が書いたFOLFOXとソラフェニブの費用対効果分析です。以前このコラムで紹介(2016年4月26日)した膵がんFOLFIRINOXとゲムシタビン・ナブパクリタキセルの費用対効果分析と同じ著者で、費用対効果の閾値も2万ドル(220万円)で同じです。結果、FOLFOXをソラフェニブに切り替えたときの増分費用効果比(ICER)は93万ドル/QALY、すなわちソラフェニブでもう1年延命するのに必要なのは1億円。費用対効果の閾値より遙かに高額であり、ソラフェニブよりもFOLFOXの方がコスパがよい。
つっこみどころは、ドキソルビシンのコスパが断トツであるのが自明(FOLFOXと生存期間有意差なし、遙かに安価)であることです。

2016年8月22日  石井 浩

腹腔洗浄細胞診陽性の局所限局膵がん:Stage4bの進行がん?

腹腔洗浄細胞診陽性の局所限局膵がん:Stage4bの進行がん?

米国シアトルにあるバージニア・メイソン医療センターからの報告。この病院では以前から膵がんの切除可能性を画像診断と審査腹腔鏡(下腹腔洗浄細胞診)で決定してきました。画像で明らかな遠隔転移がみられなくても、微小な肝転移・腹膜播種が数%にみられるからで、米国では切除前に審査腹腔鏡を行う施設が少なくありません(日本では少数派と思われます)。腹腔洗浄細胞診が陽性であった場合の対応は日米で差があり、米国では遠隔転移例扱いで非切除療法が選択されますが、日本では切除術が行われることがほとんどです(日本では切除目的の開腹下で腹腔洗浄細胞診が行われる事情があります)。腹腔洗浄細胞診陽性例の切除成績は、日本の文献で生存期間中央値8-15ヶ月(23.8ヶ月の外れ値あり)で、日本の外科医は腹腔洗浄細胞診陽性を切除禁忌にしていません。
さて、バージニア・メイソンの成績です。画像で切除可能例の7.8%、局所進行例の16.1%で審査腹腔鏡下腹腔洗浄細胞診陽性(43例)でした。この43例は初回治療で化学療法を受け、経過良好の場合は引き続きケモラジ(15例)、場合によっては切除(1例)を受けていました。生存期間中央値、2年生存割合は13.9ヶ月、26%で、グロス転移を有する例(9.4ヶ月、11%)に比べて明らかに良好でした。欧米の腫瘍外科医は一般的に腹腔洗浄細胞診陽性は進行した全身癌だと認識していますが、著者らは全身治療で効果があった例ではケモラジや切除など局所療法を考慮すべきで、腹腔洗浄細胞診陽性は普通の遠隔転移癌とは異なるエンティティにすべきと主張しています。

2016年8月8日  石井 浩

肝細胞がんに対する経皮的ラジオ波焼灼療法 vs. 定位放射線療法

肝細胞がんに対する経皮的ラジオ波焼灼療法 vs. 定位放射線療法

ミシガン大学における経皮的ラジオ波焼灼療法(RFA)と定位放射線療法(SBRT)の後ろ向き観察研究。8年間にRFAで治療した161例とSBRTで治療した63例の比較。
主腫瘍径(1.8 vs. 2.2 cm)や結節数など背景は近似していたが、SBRT群は比較的肝予備能良好、AFP値は高値で、局所的な前治療歴が多かった。1年後、2年後の局所制御割合はそれぞれRFA:83.6%、80.2%、SBRT:97.4%、83.8%であった。局所制御と腫瘍径との関連は、SBRTでは明らかではないものの、RFAは腫瘍径が大きいほど局所制御は低下し、2 cmを超えるとSBRTが有意に良好であった。SBRTは切除不能である肝細胞がん例のやや大きい結節に対する一次治療としてリーズナブルである。
 
台湾の先生からRFA擁護のレター:RFA群の背景が不利でフェアではない。RECISTで局所再発判定はいかがなものか。
 
スイスの先生からSBRT優性は周知の事実とのレター:TACEとのランダム化試験の方が興味あり。
 
ついにRFAの牙城に迫ってきた放射線療法。次の標的は肝切除、刺客は陽子線療法。乞うご期待。
 

2016年7月19日  石井 浩

転移のない膵がん(localized pancreatic cancer)に対する治療の進歩

転移のない膵がん(localized pancreatic cancer)に対する治療の進歩

原著論文「切除可能境界例に対するmFFX療法・カペシタビン化学放射線療法の逐次術前補助療法:A021101」と同じ2016/6/8発行のJAMA Surgery に掲載されたレビューです。
化学療法、放射線療法の進歩により、切除可能性が高まり、膵がん治療の遠隔成績の向上が期待されている現状が理解できます。

2016年7月11日  石井 浩

切除不能原発性肝がんに対する高用量陽子線療法の第Ⅱ相試験

切除不能原発性肝がんに対する高用量陽子線療法の第Ⅱ相試験

米国3施設(マサチューセッツ総合病院、MDアンダーソンがんセンター、ペンシルバニア大学)共同の陽子線療法試験です。対象はキャンサーボードで切除不能と判断された原発性肝がん83例(肝細胞がん(HCC)44、肝内胆管がん(ICC)37、混合型肝がん2)です。HCCの31%、ICCの61%が既治療例、最大腫瘍径中央値は5-6cm、HCCの27%、ICCの12%が多発例、脈管浸潤はHCC、ICCともに3割弱で陽性でした。67.5GyE/15fractions目標で照射量中央値は58.0Gyでした。主要評価項目である2年局所制御割合(目標80%超)はHCC:94.8%、ICC:94.1%で、2年全生存割合はHCC:63.2%、ICC:46.5%でした。これらの良好な結果をもとに、現在、HCCに対する放射線療法 vs. 陽子線療法、ICCに対する化学療法±放射線療法の第Ⅲ相試験の計画が進行中です。
局所制御割合90%超なら小型HCCに対する経皮的ラジオ波焼灼療法に遜色なく、コストを度外視すれば痛みも少なく患者に優しい治療として歓迎されるでしょう。

2016年7月4日  石井 浩

切除可能境界例に対するmFFX療法・カペシタビン化学放射線療法の逐次術前補助療法:A021101

切除可能境界例に対するmFFX療法・カペシタビン化学放射線療法の逐次術前補助療法:A021101

米国国立がん研究所(NCI)がスポンサーとなる臨床試験グループ、Allianceの膵癌術前療法試験です。切除可能境界例とは、切除可能例と局所進行(切除不能)例の境界例のことです。技術的に切除可能であっても、動脈浸潤等で予後不良が予想されることから非手術になることが多い病態です。
膵がんに対しても抗腫瘍効果の著しい治療が近年登場してきていることから、術前療法で切除可能になるのではと注目を集めている領域です。また、膵がんは小さくみつけても、オカルト転移が少なくないことから、手術療法単独の限界は明らかです。そこで補助療法の出番になりますが、膵がん切除術は侵襲が大きく、術後補助療法を受けられる集団は限られています。その点でも術前補助療法は手術とセットで受容できる集団が多いことから、その有用性に関心が高くなっています。
本試験治療は最も強力な多剤併用化学療法のひとつであるmodified FOLFIRINOX(mFFX)療法、化学放射線療法の逐次療法のあとで手術を行い、術後もゲムシタビン補助療法を加えるフルコースになります。登録23例中22例が治療開始となり、14例がグレード3以上の有害事象を経験しつつ、15例が膵切除を受けました。手術15例中14例にR0手術が可能で、2例で病変は完全寛解でした。治療22例の生存期間中央値は21.7ヶ月でした。
従前なら非切除となる集団ですが、今の非手術療法だとこの集団で生存期間中央値21.7ヶ月はそれほど良好な結果とはいえません。しかし、何と言っても手術のメリットは長期生存ですので、本試験では今後の経過観察の結果に期待したいところです。

2016年6月27日  石井 浩

腎がん手術後のスニチニブあるいはソラフェニブによるアジュバント療法

腎がん手術後のスニチニブあるいはソラフェニブによるアジュバント療法

完全切除がなされた腎がん(T1b, G3-4以上)に対するスニチニブ、ソラフェニブ、プラセボ投与の二重盲検試験です。1943例が3群に振り分けられ、1年間内服治療をします。非再発生存率の中央値は、スニチニブ群で5.8年、ソラフェニブ群で6.1年、プラセボ群で6.6年、各群間に有意差は認めませんでした。スニチニブとソラフェニブ投与群で高血圧や手足症候群の有害事象が多く、45%で投与中止になっています。また減量して開始しても30%で投与中止になりました。腎がん手術後の初めてのアジュバント試験でしたが、チロシンキナーゼ阻害薬はアジュバント使用で効果は認めませんでした。

2016年6月23日  橋根 勝義

膵癌切除後補助化学療法S-1 vs. ゲムシタビン:JASPAC 01試験

膵癌切除後補助化学療法S-1 vs. ゲムシタビン:JASPAC 01試験

CONKO-001試験の結果から、膵癌切除後補助療法の標準治療は世界的にゲムシタビン単独療法と考えられていました。JASPAC 01試験は、簡便性、安全性に優れるS-1がゲムシタビンに遜色ない非劣性の遠隔成績を証明するための試験でした。結果は非劣性どころか全生存期間のハザード比が0.57、驚異の圧勝で、日本における膵癌診療が大きく変わるピボタル試験になりました。本試験は打ち切り例がほとんどいなく、その生存曲線は極めて固いエビデンスを物語っています。
ところで、こんな大差で有効中止になっているのに、なぜ観察期間中央値が6年半を超えるまでに最終解析と論文公表が遅れたのでしょうか。その答えは論文中に示されています。徹底的に監査を行い、「日本の論文=研究不正」の疑いの芽を一年かけて徹底的に摘む時間が必要だったようです。

2016年6月20日  石井 浩

進行肝細胞がんの対するソラフェニブ vs. 定位放射線療法:費用対効果解析

進行肝細胞がんの対するソラフェニブ vs. 定位放射線療法:費用対効果解析

切除不能進行肝細胞がんの標準治療はソラフェニブ療法である。しかし、局所進行例に対しては放射線療法が良い治療成績を示すことが観察研究や単アームの臨床試験で示されている。このため、日本では(エビデンスレベルが低いにも関わらず)保険収載されており、その費用はおよそ60万円である。
本論文は台湾で行われたソラフェニブと定位放射線療法の費用対効果分析であり、データはソラフェニブのエビデンスを確立させたSHARP試験とトロント大学で行われた定位放射線療法の第Ⅰ/Ⅱ相試験が用いられた。モデルのソラフェニブ薬剤費は180万円、定位放射線療法費は70万円である。
彼らの計算による増分費用効果比(ICER:定位放射線療法をソラフェニブに切り替えたとき、健康な1年を得るのに必要な差し分の費用)は1300万円/QALYであり、費用対効果の閾値:740万円より高い。よって台湾における進行肝細胞がん定位放射線療法のコスパは高い。
費用対効果の閾値は、イギリス、日本、アメリカで350万円、500万円、670万円とする資料があり、台湾で740万円は?と思います(中国本土では220万円とする論文を既に紹介しました)。つまり、費用対効果解析は所変われば品変わる代物で、インターナショナル・ジャーナルに英文で掲載するべきものなのか、ちょっと訝しむところがあります。

2016年6月6日  石井 浩

<< 前の10件  1  2  3  4  5  6  7  8