四国がんセンター

名誉院長エッセイ<季刊>患者の言い分、医者の言い分

ええっ、もう帰るの!?:2013年1月号

ええっ、もう帰るの!?

がんセンターが堀之内にあった頃、それも15、6年前のお話しです。80才過ぎのおじいちゃんに胃がんの手術をしました。がんの手術ですから、胃を切り取るだけでなく、胃の周りのリンパ節も切り取ります。その頃の胃がん手術後の入院期間は、平均で3週間ほどでした。ご年配故に、ゆっくり入院してもらってもいいかなと思っていました。術後は順調にいって、7日目の抜糸も終わりました。確かに、手術の前から、『病院はいやだ、うちがいい』としきりに言ってはいたのですが、抜糸のあと『先生、帰りたいんじゃがのお』。「ええっ、もう帰るの!?」まさか、抜糸の日に退院とは…お願いして、なんとか翌日の退院にしていただきました。若い人でも、けっこうこたえることが多いのですが、年齢を甘く見ていましたね。

人さまざまです

今でこそクリニカルパスといって、治療前後の経過を文章や表にして、患者さんと情報を共有することが当たり前になりましたが、当時は、メディカルスタッフの間で、暗黙の了解のもとに治療を進めていました。建物が古く、今とはとても比べものにならない状態だったせいか(技術には自信があったのですがね。いいわけじみてますか?)、患者さんの数も今ほど多くはなく、ゆったりとした時代だったなあと、懐かしくなります。今では、患者さんの数も増え、そんなことをしていては、手術までの待機時間が何ヶ月にもなってしまいます。当時は、ほとんどの患者さんが3週間ほど入院し、順調にいっても、中には4週間を超えることもありました。そのおじいちゃんは、家にいる方がリラックスできて良かったのでしょうね。退院後もとてもお元気で、外来に通ってくださいました。

いつから仕事をしてもいいでしょうか?

患者さんにとって、退院と並んで、いつから仕事に復帰できるかが、最大の関心事の一つですね。特に若い人は、手術の前は元気なので、退院後すぐにでも仕事ができるような気持ちを持っている人が多いのです。ところがどっこい、人間。誰でも術後3、4日もベッド上で寝ていると、体力がガタッと落ちます。術後は、仕事の内容にもよりますが、だいたい1、2ヶ月は自宅で過ごす方が多いようです。これがまた人さまざまなのです。今まで受け持った患者さんの中で、退院後1週間で仕事を始めた方が最短記録でした。手術から数えると、3週間弱でした。もっとも、デスクワークがほとんどの方でしたが。体を使う仕事では、交番勤めの警察官の方で、当時確か50才代半ばだったと記憶していますが、退院後2週間、手術から数えると、4週間ほどで現場に復帰されたのが最短記録ですね。外来で、「疲れるでしょう」と聞いても、帰ってくる答えは必ず、『仕事をしているほうが、気が紛れてかえっていいですよ』なのです。自分の思うようなことができることが一番なんですね。

最近は元気な人が多くなったなあ

最近、太った人が多くなったことと、元気な人が多くなった印象です。20年くらい前には、やせた人が多くて手術も比較的楽だったのですが、最近は太った方が多くて、正直なところ大変です。救いは、元気な人が多くて、われわれの手術中の苦労はどこへやら、術後の経過は順調なことが多いですね。退院も、抜糸が終わるとそわそわし始め、10日くらいで退院していく方が多くなりました。私は働く人が大好きなのでうれしい限りです。

実は

胃がんの手術後の5年生存率は、10年前と比べると10%近く上がっているのです!手術の精度が上がったからだろう、なんてのは手前味噌ですかね。本当のところは、患者さん自信が元気になったからかもしれませんね(^_^;)

栗田 啓