四国がんセンター

名誉院長エッセイ<季刊>患者の言い分、医者の言い分

言い間違い その二:2010年7月号

これってがんの症状なの?

病院へかかるもとになった患者さんの症状を主訴といいますが、それががんの症状ではないこともしばしばあります。つまり、がんと直接には関係ない症状がたまたま重なったために、がんが発見されることがよくあります。

おなかが痛いんです…

患者さんは、80代のおばあちゃんです。しっかりしたおばあちゃんです。かかりつけのお医者さんを訪ねました。「先生、右の横腹が痛いんです。」「どれどれ、診てみようね。」するとそこには、確かにぶつぶつがでていました。「ん、これはヘルペスじゃなあ。帯状疱疹ともいってね、子供の頃にかかった水ぼうそうのウイルスが神経に沿ってでてきたんよ。」おばあちゃん、ちょっとがっかりした様子で、「えっ、そうですかぁ…ついでに胃の調子も悪いんで診てくださいっ!」どうやら本心は胃を診て欲しかったようです。そこは、私とは違って??やさしいお医者さんです、「じゃあ胃カメラをしてみようね。」すると、なんと胃がんがみつかったのです。

ここが痛いんです…

おばあちゃん、娘さんにつれられて私の外来へやってきました。紹介状には、胃がんを治療してください、とあります。丁寧な紹介状で、病気の様子がよくわかりました。これなら、手術で治る可能性が十分にあると判断しました。そこで、「おばあちゃん、胃にがんができていますねぇ。手術をしてうまく切り取ることができたら、治る可能性が十分にあると思いますよ。」「そうですくあぁ、はいわかりました。(おなかを出して)でもここが痛いんです。」CTなどの転移の検査、全身麻酔や手術に耐えられるかなどの全身状態のチェックが進んでいきました。「よーし、これなら手術できるぞっ。」

痛いところを治してください

入院してこられました。手術の前に、病気のこと、手術のこと、合併症のことなどお話をします。手術のお話が終わった頃でした。やにわにパジャマをめくりあげて曰く、「ここは大丈夫なの?」「えっ…」しばらくの沈黙のあと、「かさぶたができてみかけははでだけど、ほとんど治っているからもう大丈夫よ。」ううむ、そうか、このおばあちゃんにとっては、ぶつぶつのほうが気になるんだ。気を取り直して、最後までお話ししました。40分くらい話したでしょうか。最後に、「何か質問がありますか?」おばあちゃん、スリッパをぬいで、「足の指が、親指を除いてしびれた感じがするのはどうして?」 心の中で、ちょっとむっとして、(ここはひとりごと)『途中、ちゃんと聞いていてくれたと思ってたんだけどなあ…』 しばし絶句のあと、「そ、それは、あとで整形外科の先生に相談しようね。(-_-:)」

手術はスムーズでした

このような方は、手術の前後はスムーズにいくものです。おばあちゃんも例外ではなく、順調にいきました。ただ、胃が小さくなってるせいで食事量の伸びはぼちぼちといったところでした。術後、しばらくたって落ち着いた頃のことです。

極めつけ

このおばあちゃんには、胆石があって、手術のときに胃のほかに、胆石とともに胆嚢も切り取りました。胆石は、ご本人へお渡しするのですが、お孫さんがおばあちゃんに胆石を見せました。たまたまその場に回診中の私も居合わせたのです。お孫さん曰く、「おばあちゃん、これが胆石よ。」そこには、黒々とした小さな塊が見えたはずなのですが、私がいたから緊張してたのでしょうか、おばあちゃんの返す言葉、「せきは時々出るけど、たんはあまりでんのよ。」とほほ、痰咳かよっ…

栗田 啓