四国がんセンター

名誉院長エッセイ<季刊>患者の言い分、医者の言い分

医者のひとりごと その十(完):2006年01月号

インフォームドコンセントっていったい…

病気や治療のインフォームドコンセントは、本来、患者さんが今かかっている病気についてだけくわしくお話しするのが本来の姿です。そうしないと、とめどなく時間が過ぎていって、おたがいにぐったりなってしまいますよね。胃がんであれば、がんの発生から始まって、解剖(おなかの中がどんなになっているかのイラストを交えてのお話しです)をお話して、次にそれをもとにして、どこをどう切りとって、切りとった後でどうつないでまた食べられるようにしていくかを一時間ほどかけてお話していきます。よどみなく?脱線することなくお話しするのが正道と思っていますが、脇道へそれることもけっこうあります。こんなことがありました。

時間がかかる…

この病院に赴任してきた最初の頃でした。環境の変化にストレスがたまったのでしょう、手術前の手洗い(腕や手、指先を消毒液で洗うのです)で、わたしの指は皮膚炎になり赤くなってただれたようになっていました(手術の時には、手の上から消毒した清潔な手袋をしますのでご安心ください)。皮膚科の教科書に出してもいいくらい、自分でも思い出したくないひどさでした。でも、手術をやめるわけにはいかず、日々辛かったおぼえがあります。そのころのことでした。あれは胃がんの患者さんだったなぁ。中年の”おばさま”でした。病気の話から手術の話に移ろうとしていた矢先に、「あら、先生、手がきたない!かわいそう!ひどい!」「うん、ストレスと手洗いのせいなんですよ。怪しい病気じゃあないから安心して。」それから、しばらくアレルギー性皮膚炎の話をせざるをえませんでした…ん、待てよ、今日は胃がんの話のはずじゃあなかったのかなぁ。そういえば、ご本人の目線が、説明している紙ではなくて、わたしの手に釘付けだったような…手荒れが気になって話を聞いてなかったんじゃあないの?さて、気を取り直して、胃がんのお話に戻りましたが、いつもの倍近い時間がかかってしまいました。
ちなみに、いまでもわたしの手や指は、ちょっとしたストレスですぐに赤くなってかゆくなります。でも、あのときのようにひどくはなりません。いまではなつかしい、ワンシーンです。

患者さんに救われる

わたしは、外来で診察の後には「おだいじに。」と一言添えるのですが、風邪なんぞひいてるときには、逆に「先生、医者の不養生ですね。おだいじに。」って帰ってきます。「ありがとう。」うれしいですね。でも、状況によっては気が引けることもしばしばです…きのう、飲みすぎたとも言えないしなぁ…
病院の廊下ですれ違ったとき、先方から、「先生、元気?身体、大事にしてよ!」「あ、ありがとう。○○さんもねぇ。」うれしいなぁ。大事に思ってくれてるなぁ。でも、その後がいけません。「先生がおらんとうちの病気がひどおなったときにこまるけんのお。」あっそう。そういうことか…

がんばる

たくさんのエピソードをお話してきました。皆様に後押しされてはや10回を迎えました。そろそろ繰り返しのパターンになりそうです。その前にこのシリーズを終わらせていただきます。機会があれば、骨組みを変えて再出発するかもしれません。では、紙面でまたお会いできればと思っています。
最後に、わたしの母校の言葉です。

『がんばっていきまっしょい!』

栗田 啓