四国がんセンター

名誉院長エッセイ<季刊>患者の言い分、医者の言い分

医者のひとりごと その五:2004年10月号

インフォームドコンセントっていったい…

あれは医者になって3年目ぐらいだったかなあ。県外のある病院に勤めていた時のことです。
当時の院長は名だたるワンマンで、院長が言ったことはすべて正しいってなぐあいで、文字通り、病院に『君臨』していました。毎日の様にわたしと外科の病棟の回診をしていましたが、ある日、胃潰瘍の患者さんがいらっしゃいました。彼曰く、「院長先生、飯を食うと腹のうずきがとまるんよ。なんでじゃろうか。」院長曰く「それはね、潰瘍でできた穴の中に食べたものがつまって栓をして、胃が動かなくなってそれで痛みが止まるんですよ。ね、栗田君!」まさか、こちらにふられるとは思ってもなかった矢先、返す言葉はこれしかありませんでした。「はっっ、そ、そうですねぇ…」当時は、わたしもまだまだうぶな3年目。反論するすべもありませんでした。
今では、誰もこんな説明で納得はしないでしょうね。かえって信頼をも失いそうです。でも、当時は患者さんも「は、なあるほど。それでかぁ。よおくわかりました。」??
その院長先生は、地元では名士で、とても信頼されていたのでした。

時間がかかる…

いまやがんの告知は当然のことのようになってきました。また、治療法についても、いろんな方法をお話しするのが当たり前のようになってきました。患者さんのほうも知識が豊かになってきました、というより患者さんの知識が豊かになったことが先で、それにあわせるために医療サイドが情報の提供をし始めたっていうのが本音でしょうか…
インフォームドコンセントは時代と共に変わっていくのですね。昔はああいったわかりやすい?説明でよかったのでしょうし、またそれが求められていたのでしょうね。それが今の時代のインフォームドコンセントにたどり着くまでには、けっこう時間がかかっているのですよ。もっとも、この20数年を短いと思う方もいらっしゃるでしょうし、また、インフォームドコンセントの内容も地域によって温度差はありますがね。

患者さんに救われる

外来で、初診の患者さんを診察する時にこんなことがありました。
わたしは、主に食道がんと胃がんを診ていますが、紹介状を見て、ひとしきりお話を聞いて、さて、「さあ、おなかを診ましょう。ベッドに横になってくださいっ。」ざっとカルテの記載をして、机から診察台に目を移すと、患者さんと目が合いました。なんと、ほんとにこちら向きに『横』向きになっていらっしゃいます…「あっ、上を向いてやすんでください。そうそう、膝を立てて、おなかの力を抜いてね。」
こんなことがあってからは、「ベッドに休んでください」って言うようにすることにしました。でも、時々忘れて、「横になってください。」って言ってしまいます…今でも、診察室では、時々こんな風景とこんなやりとりが見られます。

がんばる

手術でがんをうまく切り取ることができた場合も、もちろんそうでなかった場合もあります。切り取ることができなかった場合には、敗北感にさいなまでます。もちろん、がんが進みすぎているために切り取ることができなかったわけなのですが…。
さあ、手術をして、うまくがんを切りとることができました。「先生、ありがとう!」この一言が、たまりません。医者冥利に尽きます。御礼の言葉なんかいらない、なんてきれい事は言っていられませんね。やはり、人の子、感謝されてまた頑張るぞ!って気になります。はは、ちょっと本音が出ちゃいましたね。今回は、わたしががんばるお話でした。

栗田 啓