四国がんセンター

名誉院長エッセイ<季刊>患者の言い分、医者の言い分

医者のひとりごと その四:2004年07月号

インフォームドコンセントっていったい…

がんセンターに来られる多くの方は、開業の先生がたからの紹介です。
「ご自分の病気のことをどう聞かれていますか?」「なんでも、胃に傷ができとって手術せんといかんげな。」「そうですか。紹介状によりますと、どうやらがんのようですねえ。」「えっ、そんなことは一言も聞かんかったがな。あの先生は、嘘をいっちょったんかな。」いえいえ、あなたが気落ちしないようにと思ってそういったんですよ。
そうそう、こんなこともありました。一昔前、といっても昭和ですよ、念のため。私が、ある大学の附属病院で肺がんの治療にたずさわっていた頃の話です。先輩の先生から、肺がんは、肺にカビが生えてかたまりを作っていると言えと教わりました。何の疑いもなくそうお話をし、手術をおすすめしてきました。おかしいですよね。外科の病棟全体がカビだらけなんですよ。これじゃあ、院内感染だぁ。今思い出すと、本当に患者さんがたは信じていたんだろうか、本当は、医者の方が慰められていたんじゃあないのかって思うんですよ。
あれから十数年だったでしょうか。最近では、がんと告知した後で紹介してくださる場合が増えてはきましたが、多くの開業の先生がたは、紹介の時点ではがんと言われていないようです。それが、がんセンターへ来たとたんにがんと言われ、絶句される方もいらっしゃいます。でも、がんをこれから治療していくにあたっては、医療にたずさわる側だけでなく、患者さん、ご家族の方々との連携プレーがなくてはならないのです。それにはちゃんと理解しておいていただかなくては。

時間がかかる…というより短かった?

世の中の流れに、医療も流されます。一昔前までは、肺がんを肺にカビが生えたと言い、胃がんを胃の潰瘍だと言い、とにかくひたすらがんを隠し通すのが医療の建前でしたし、また、世の中の流れだったと言っても言い過ぎではないでしょうね。ところがどっこい、今はどうでしょう。インターネットでだれでもがんの情報、その治療の方法まで知ることができるんです(逆に怪しい情報も手に入っちゃいますがね)。今の時代の風潮がよいか悪いかは別問題として、とにかくこの十数年でがんに対する考え方が変わってきました。世の中が医療を変えたのかな、医療が世の中を変えたのかな。きっと、前者のほうでしょうね。

患者さんに救われる

手術のお話をするときに、「先生が手術をしてくださるんですよね。」と、聞かれることがあります。手術は、一人でするものではなく、何人かの外科医、麻酔科医と、何人かの看護師があわさって初めてできる技なんですよ。
こんな患者さんがいらっしゃいました。覚えていますか、バレンタインのチョコレート騒動の当事者の方です。手術が終わって、六日目後頃だったでしょうか、「先生が執刀(手術をすることです)してくださってよかったです。あのとき、手術場のベッドに寝ている自分を、私は部屋の天井の隅からみていました。あ、先生がいるなと思いちょっと安心しました。麻酔がかかり、シーツが私の上にかかりました。先生が、私の右にたって、お願いしますと言って、手術が始まりました。ああ、よかった、先生が手術をしてくださるんだとわかって私は自分の中に戻りました。」「・・・」
体外離脱と言う言葉は知っていましたが、実際に患者さんの口から聞くとは夢にも思いませんでした。あまりにリアルでしたし、手術が始まる時に「お願いします」と言うなんてことは一般の人たちはまず知らないでしょうから、これはほんものだな、と感じました。
もちろん、この方にも、手術後の経過、がんの状態がどうであったか、すべてお話ししてありますよ。

がんばる

一昔前は、医者の裁量だとか言ってがんをひたすら隠し通すことが美徳のように言われてました。私もまた、そんな時代を通り抜けてきました。でも、私は思うんです。あれは、医者の思い上がりだったんじゃあないのかと。たくさんの人を見てて思うんですよ、人間ってそんなに弱くないですよ!もちろん、立ち向かっていくようにサポートするのが医療側の大きな役目ですが。
ほんとに皆さん頑張っておられます。そう、あなたも。

栗田 啓