四国がんセンター

名誉院長エッセイ<季刊>患者の言い分、医者の言い分

医者のひとりごと その三:2004年04月号

インフォームドコンセントっていったい…

だれでも思いこみはあるものですが、自分の都合がよいように思い込む方と、逆に悪い方悪い方へと思いこむ方がいらっしゃいます。
ちょっと前のことです。胃がんの手術をしてからもう何年も病院へ来られてないので、再発のチェックのためにいらっしゃいよと電話をかけました。翌週、ああ、来られた来られた!「久しぶりですねえ。時々は顔を見せてくださいよ。さあ、再発のチェックをしましょうか。」「ええっ。先生は、退院の時に、もう大丈夫。治ったよ。再発することはないって言ったじゃあないですか。」「そんなことは、言うはずがないですよ。がんは、早期でも絶対に再発しないっていう保証はないんですよ。残った胃にもまた新しくできることもありますしね。」
がんの手術をして、最終的に顕微鏡検査の結果が出てから、これからのことをお話しします。早期のがんの時には、いつも、「まず治ったと思いますよ。でも、絶対再発しないということは保証できないのです。定期的に再発や、新しくがんができていないかどうかをチェックしていきましょう。」と、皆さんにお話しているんですが…
いやでたまらなかった手術が終わって、しんどい時期も過ぎて、さあ、退院だ!!そんな時に、絶対再発しないって言う保証はないなんていわれて…誰だって聞きたくないに決まってますよね。たぶん、わたしの話のいいところだけが脳裏に刻み込まれたんでしょうね。気をつけなくては。

時間がかかる

さて、がんの再発は多くの場合、2から3年までにおこることが多いのですが、乳がんの場合などは5年すぎてからなんてことが結構あります。ですから、気持ちを持ち続けるのもたいへんです。ご存じの方も多いと思いますが、乳がん術後のホルモン療法はだいたい5年が目安です。乳がんは、典型的ないわゆる”がんと共に生きる”タイプのがんです。不幸にも再発したとしても、最近は今までの抗がん剤の組み合わせや新しい抗がん剤の出現で、どんどんとまでは行きませんがますますその傾向が強まっています。
また、乳がんは抗がん剤による治療のアップデート(新しくなることです)が一番目立つがんの一つでしょうか。このこともがんと共に生きることを後押ししているのです。治験や臨床試験といって、新しいお薬や、いくつかのお薬の一番よく効く組み合わせを見つけ出すための試験に、たくさんの方にご協力いただいています。このことで、次の世代のよりよい治療が生み出されていっているんですよ。ありがとうございます。

患者さんに救われる

ある胃がんの患者さんのお話です。かなり進行した胃がんで、手術はできましたが、すべてをとりきることができませんでした。要職についていた方であったこともあり、正直に、これこういった抗がん剤の治療をおすすめしますとお話しました。「わかりました。」静かに、それも笑顔なのです!「頑張って見ます。」と。彼の心の中の葛藤はいかほどだったでしょうか。そういった方だったからでしょうね、すぐにお仕事に復帰されました。後継者に道筋をつけて、しかも最後までがんと闘われました。わたしは、患者さんとは個人的なつきあいはしない方針でしたが、彼とは何回か飲みにいきました。踏み込んだ話はしませんでしたが、いまでも彼の人に決して不快な気持ちを持たせないお人柄が目に焼き付いて、心にしみついています。ああいう人には自分はとうていなれないなあ。

がんばる

がんセンターの外来、病棟は千客万来です。共通していることといえば、がんと告げられ、今までは聞きたくもなかった、いろんな治療について長々と聞かされることでしょううか。でも、思うんです。人間って強いですよ。時間に個人差はありますが、必ずといっていいほど立ち直って治療に専念されます。わたしは人間の生きていこうとする心がそうさせるものだと思っています。ほかに大きなものがあるとすれば、一緒に治療を受けていらっしゃる多くの仲間達の存在でしょうか。私たちのフォローなあんて微々たるものです。あの一生懸命な心が私たちをふるいたたせるのです。

あっそうそう、最初にお話した患者さん、その時検査しただけでその後も来られていません…ううむ。まっことインフォームドコンセントはむずかしい。

栗田 啓