腎がんの治療は、手術療法による腎の摘除が唯一根治の可能性を持っています。そのため、全身状態が問題なければ第一に手術を考えます。手術には腎摘除術(開腹と腹腔鏡下)と腎部分切除術(開腹と腹腔鏡下)があり、それぞれの手術について、適応と手術方法を説明します。
1.根治的腎摘除術について
転移のない腎がんの全てが根治的腎摘除術の適応となります。T3b以上では、腫瘍塞栓や隣接臓器の合併切除が必要となることもあります。また、転移のある症例に対しても術後免疫療法が可能である場合には、根治性はないのですが腎摘除術が施行されます。これは、原発巣である腎を摘除した後にインターフェロンを用いた免疫療法を行えば、腎摘をせずにインターフェロンによる治療を行った場合と比較し生存率が向上したからです。
病期Ⅰ、Ⅱ期に対する腎摘除術の成績は、5年生存率でそれぞれ90%以上、75―96%と非常に高いのですが、リンパ節転移を認めた場合の5年生存率は15―25%と極端に低くなり、病期が進行すれば当然のことながら予後不良となります。
1) 開腹による手術方法
アプローチの方法により、経腹膜的と後腹膜的アプローチに分けられます。どちらも特別な術前処置は必要としませんが、経腹膜的アプローチを用いる場合には操作腔を広く取るため、前日に下剤を用いることもあります。
<経腹膜的アプローチ>
体位は仰臥位で行い、腹腔内より後腹膜腔に達します。切開は腫瘍の大きさ、局在により腹部正中切開、肋骨弓下横切開、フラップ状切開などが用いられます(図4)。腹腔内臓器、主に結腸の脱転が必要となります。このアプローチのメリットは、広い操作腔の中で直接腎茎部に達することが可能な点です。そのため、大きな腫瘍に対しても手術操作が容易とされます。合併症として腹腔内臓器の損傷、特に結腸の損傷に注意が必要です。さらに、右腎摘除術であれば肝臓・十二指腸、左腎摘除術であれば脾臓・膵臓・横隔膜等の損傷の可能性があり、注意しなければいけません。
<後腹膜腔アプローチ>
患者は腰部を挙上した側臥位で手術を受けます。腰部斜切開にて後腹膜腔に達します。(図5)後腹膜腔内での操作のみで行うため、腹腔内の癒着(腹部手術の既往など)が問題になることはまずありません。また、逆に腹腔内への影響もまず起こりません。短所として、操作腔が狭く、腫瘍が大きな場合には腎茎部の処理が困難です。また、腰部斜切開に伴い肋間神経を切断するため、術後患側下腹部の違和感を訴えることが多い術式です。
2) 腹腔鏡下による手術法
泌尿器科領域の代表的低侵襲手術として腹腔鏡下腎摘除術は広く普及し、T2以下では標準的手術法になっています(どの程度の大きさまで可能かは施設にとって異なる)。拡大された術野がモニターに映し出されることにより、微細な解剖の理解、緻密な手術操作が可能となりました。また、術者のみならず手術室にいる全員が術野での操作に関し共通認識を持つことが可能です。このことは、教育的側面のみならず安全面からも有益な手術法なのです。
手術はトロッカーと呼ばれる3―4カ所の操作用孔を介し、CO2ガスで気腹された体腔内に腹腔鏡、鉗子を挿入して行われます。この手術法は、立体感のない平面画像化されたモニターを見ながら施行し、さらに、全ての手術操作を動きに制限のある鉗子のみで行うため、独特の手術手技が要求されます。術後は数カ所のトロッカー痕と摘出腎を取り出す5 cm程度の創が残るのみとなります。そのため、開腹手術に比べ創痛は遙かに軽く、多くの場合術翌日からの離床が可能です。また美容的側面からも有利です。
腎へのアプローチ経路により、経腹的到達法と後腹膜的到達法に分けることが出来ます。いずれも一長一短で、いずれを選択するかは術者の好みによります。
→→→→→→→→→腎摘の説明 
2.腎部分切除術について
Partial nephrectomy (腎部分切除術)よりもNephron sparing surgery (ネフロン温存手術)がこの手術の本質を言い表していると思えますが、泌尿器科用語集ではpartial nephrectmy(腎部分切除術)が採用されています。腫瘍と最低限の正常腎実質のみを切除し、残りの腎組織を温存する手術方法です(図6)。腎摘除術では、術後片腎となり、腎機能は少なからず低下します。この術式の目的は、がんの根治性とともに腎機能の低下を防ぐことにあります。患側腎を温存した際、問題となるのが残存腎へのがんの再発ですが、報告では5%未満とされています。
部分切除術はT1a(直径4cm以下の腎がん)に対して標準的治療法として定着しつつあります。4cmを超える腎癌の場合、対側腎が正常であれば通常腎部分切除術の適応になることはありません。これは、4cmを超えると残存腎の再発が高くなるからです。しかし、単腎症例、両側同時性症例、腎機能低下症例、VHL病などの場合は4cmを超えても適応となります。
4cm以下の腎癌に対する部分切除術の治療成績は、腎摘除術と同等で、5年生存率95%以上です。特に、65歳未満では、腎摘除術を行った患者よりも部分切除を行った方が、全生存率がよかったとの報告もあります。さらに、部分切除術を施行したほとんどの症例は、腎機能も術前とほぼ同様であったと報告されています。合併症は、この術式に特有な尿路が開放した際の尿漏やそれに伴う発熱、腫瘍切除面からの術後出血があげられます。頻度は腎摘除術と比較して少し高くなりますが、許容できる範囲です。
<術式>
経腹膜的アプローチ、経後腹膜的アプローチのいずれも可能です。また、腹腔鏡下でも可能ですが、腹腔鏡下の場合、縫合手技のマスターが必要不可欠です。まず、腎茎部に至り、腎動脈を同定します。術中の出血を減らし操作性を高めるため腎動脈をクランプする方法と、阻血による腎機能低下を防ぐため腎動脈をクランプすることなく腫瘍を切除する方法があります。術中超音波検査により腫瘍の大きさ、局在やサテライト腫瘍の有無を確認の上切除範囲を決定し、腫瘍を切除します。切除面を合わせるように縫合することで腎実質からの出血は止血できます。ただし、切除面に血管が開放されている場合は別に針糸等を用いて止血します。また、フィブリン糊やフィブリン綿なども止血補助に使用します。
クランプの有無にかかわらず、腫瘍の切除開始から止血が完了するまでは迅速に行います。時間の長さとともに腎動脈クランプでは残腎機能の低下に、非クランプ例では出血につながるからです。
→→→→→→→→→部分切除術の説明 
3.腎がんの特殊な手術法
1) 腎静脈―下大静脈―右心房に腫瘍塞栓を伴う腎がんに対する手術
腎がんは、腎静脈内に進展し腫瘍塞栓を形成することがあります。さらに腎静脈から下大静脈、右心房まで進展する場合もあります(図7)。がんの進展が腎静脈内のみにある場合や、さらに進展した場合でもリンパ節転移や遠隔転移を認めない場合には、手術により生存率の延長が期待されます。しかし、術中の侵襲や危険性が高く、手術適応には慎重な判断が必要となります。また、腫瘍塞栓の程度に応じて血行バイパス術の併用や人工心肺装置の使用が必要となります。したがって、手術は外科や心臓血管外科と協力して行う必要があります。
術中合併症は、大量出血、肺塞栓、肺水腫など重篤なものが多く、リスクを伴う治療法です。術後も同様な合併症を引き起こす危険性があり、厳重な管理が必要です。術後合併症は70%以上に起こり、手術関連死は3~16%と報告されています。5年生存率は50~60%と報告されていますが、腫瘍塞栓が肝静脈流入部や右心房に達している場合や腫瘍が下大静脈に浸潤している場合では、生存率が低下すると報告されています。しかし、腫瘍塞栓を完全に摘除できれば、生存期間の延長が期待でき、試みるべき治療法です。
2) 腎がんの転移巣に関する手術
腎がんの転移好発部位には、肺、骨、脳などがあります。基本的に、転移巣に対しても、原発巣と同様に手術を第一に考えます。全身状態が良好で転移巣が切除可能な場合に、手術により転移巣を切除することで生存期間の延長が期待され推奨されています。すなわち、腎および転移巣をすべて摘除し、その後に免疫療法をした方が免疫療法のみを行った場合と比較して予後が良好なのです。また、骨転移により神経麻痺を来した症例に対して、症状の軽快を目的とした緩和的な手術が行われることがあります。患者のQOLを考慮すれば、適応のある症例には積極的に行うべき手術です。
3) 特殊な手術法
4cm以下の腎がんに対しては、腎部分切除術が推奨されています。しかし、全身状態により手術が困難な場合、手術を拒否した場合などに低侵襲な経皮的局所療法が考慮されることがあります。経皮的局所療法には、ラジオ波焼灼術(RFA:radiofrequency ablation)と凍結療法(cryoablation)があります。
ラジオ波焼灼術は、CTやMRI、超音波装置など用いて、がんにラジオ波電極針を刺入します。ラジオ波を流し、電極針周囲を60℃以上にすることで、がん細胞を壊死させるのです。適応として、がんが腎臓の外方に突出している場合や直径2~3cm以下の場合は治療効果が良好であると報告されています。一方、他臓器や腎動静脈に隣接している場合には適さない方法です。
凍結療法は、CTやMRIで腫瘍を確認しながらプローブを穿刺し、急速に冷凍し、がん細胞を凍結し破壊します(一般的に-35℃以下)。直径2~3cm以下のがんが適応となります。経皮的に穿刺する他、開放手術下や腹腔鏡下で行うこともあります。
経皮的治療の場合、術後1-2日で退院可能となります。合併症も重篤なものはほとんど認められず、安全な治療法です。治療後、数週~数ヶ月間隔で治療効果を評価します。がんの残存や再発が認められた場合には、再び局所療法が施行されます。多施設合同の報告で、RFAもしくは凍結療法を施行された616名のうち、63名(10%)に再治療の必要があったとされています。
治療成績は、短期間の報告では腎部分切除術や腎摘除術と遜色ありません。しかし、局所療法は新しい治療法のため、長期的な治療成績は不明です。また現在、日本では一般的な診療として確立されておらず、保険適用外となっています。
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