1.分子標的薬剤とは
近年、がん細胞と正常細胞の構造の違いやがん細胞の増殖のパターンなどが明らかとなってきました。がん細胞において、その特徴となっている部分、すなわち増殖や進行に関係する分子をターゲットにして開発されたのが分子標的薬剤です。理論的には、がん細胞にだけ作用して、正常細胞への影響は少ないはずです。しかしながら、実際には肺がん治療薬であるイレッサのように独特で、重篤な副作用が発症することがわかりました。従来の抗がん剤との比較を(図8)に示します。
2.腎がんの化学療法
転移のある腎がんの治療は、インターフェロンなどの免疫療法が行われてきましたが、その有効率は低く、生存に関する有益性も少ないままでした。また、既存の抗がん剤やホルモン剤、さらに放射線療法は、腎がんに対してはほとんど効果を認めません。このような背景より、新規の抗がん剤として分子標的薬剤が開発されました。わが国でも、2008年から2種類の薬剤が使用可能となりました。また現在治験中の薬剤も多く、今後多くの薬剤が出現してくると考えられています。ここでは、現在市販されているソラフェニブ(ネクサバール)とスニチニブ(スーテント)について述べます。
3.作用機序
(図9)に作用機序を示し、開発中の薬剤や市販されている薬剤を記載します。ソラフェニブとスニチニブは、がん細胞に対しては、増殖を仲介するシグナル伝達をブロックし、抗腫瘍効果を発揮します。さらに、血管内皮細胞で、血管新生に関与する増殖因子の受容体をブロックします。腫瘍への栄養をつかさどる血管の新生を阻害することにより、抗腫瘍効果をもたらすのです。
4.ソラフェニブの臨床試験
国外第三相臨床試験の概要と結果を(図10 ・ 図11)に示します。試験内容は、転移のある腎がん患者をソラフェニブ投与群とプラセボ(偽薬)群の2群にランダム化し、治療を開始しています。がんの進行が診断された時点で、偽薬かどうかを確認し、偽薬であればソラフェニブを投与します(クロスオーバー)。903例がエントリーされました。216例が偽薬からソラフェニブにクロスオーバーしています。全生存率は、有意にソラフェニブ群が良好でした。ソラフェニブ群の生存期間中央値は、19.8ヶ月、偽薬では14.3ヶ月であり、p=0.0287と総計的に差を認めました。
国内での第二相試験結果を示します(図12)。免疫療法が無効であった139例に対して、ソラフェニブを800 mg/日投与しました。治療効果は、部分寛解を19例(14.7%)に認め、80%以上の症例に腫瘍の縮小を認めました。私たちの科で認めた有効症例のCT scanの写真を(図13)に示しています。
国内での試験における副作用は、高血圧(27.5%)、手足皮膚反応(55%)、下痢(34.4%)などであり、いずれも国外での試験よりも発現率は高かったです。重篤と考えられる副作用は、14例(10.7%)でした
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5.スニチニブの臨床試験
国外の第二相臨床試験は、免疫療法が無効であった転移性腎がんを対象に、2試験行われました。さらに、ファーストライン治療として、スニチニブとインターフェロンアルファの無作為化比較試験が行われました。結果は、有意にスニチニブ群が良好でした(図14)。その結果、スニチニブは、欧米において転移性腎がんに対するファーストラインの治療薬として承認されたのです。副作用は、疲労感・手足皮膚反応・好中球減少などであり、甲状腺機能低下症による疲労感はしばしば重篤でした。
6.転移性腎がんの治療方針
分子標的薬剤が臨床に使用されるようになり、転移性腎がんに対する治療のガイドラインは著明に変化しました。すなわち、いままでの免疫療法ではなく、ファーストラインの治療薬が分子標的薬剤となったのです。わが国においても、分子標的薬剤が第一選択薬剤になりましたが、免疫療法の役割が終わったとは考えられません。今後、両治療薬の関連性や使用方法が検討されていくはずです。
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