腎がんの疫学・診断・病期
【疫学】
日本における腎がんの推定罹患率は、2001年で人口10万人あたり男性:12.9人、女性:6.2人と報告されています(国立がんセンターがん対策情報センター)。この罹患率は男女ともに年々増加しています。男女比は約2:1で男性に多く、高齢になるほど発生頻度も高くなります。一方、腎がんによる死亡率は人口10万人あたり男性で6.6人、女性で3.3人です(2005年)。男女とも癌の中で12位ですが、泌尿器科系悪性腫瘍の中では、前立腺癌、膀胱癌に次いで多い腫瘍です(図1)。
腎がん発生の危険因子として、喫煙、カドミウムやアスベストなどの職業による暴露、肥満が知られています。また、慢性血液透析患者の30-50%に後天性嚢胞性疾患が発生しますが、この疾患では通常に比べ腎がんの発生率は30倍にも上昇します。その他にも腎がんと関連する基礎疾患として、von Hipple-Lindau病や結節性硬化症、多発性嚢胞腎があります。
【診断】
臨床症状について
腎がんの臨床症状として古典的3主徴が有名です。これは、血尿、腹部腫瘤、疼痛(腰背部痛)のことですが、現在診断される腎がんでこの3主徴が揃うのはわずか数%で、70%以上が偶発癌です。偶発癌とは、症状がなく発見される腎がんのことで、たとえば人間ドックで行った超音波検査で偶然発見された、などのケースです。ただし、腎がんで無症候性顕微鏡的血尿は約40%に見られ、血尿精査で施行するCTや超音波検査で見つかることも多いのです。偶発癌の多くは小さな腫瘍であるため、症状があって見つかる腎がんより予後がよいことが知られています。
腎がんに付随する症状として発熱があり、これは約20%に見られます。その他の全身的症状として、体重減少、貧血、肝障害、高カルシウム血症などがあります。これらの症状は、一般に癌が進行すると出現してきます。
画像診断
腎がんの診断は造影CTにより簡単になされます。最近のマルチスライスCTによってダイナミック(動脈相)および静脈相の撮影を行えば診断に迷うことは少ないのです(図2)。ただ、腫瘍径が4cm以下と小さい場合は、良性腫瘍の頻度が高くなるため注意が必要です。その他の画像診断として、MRIや超音波検査があり、これらは腎血管筋脂肪腫との鑑別に有用なことがあります。最近脚光を浴びているPET-CTは腎がんの診断には無効です。これはPETで使用する検査薬(FDG)が腎で排泄されるため、正常腎にも集積があり全く診断できないためです。また、CTの精度が悪かった時代には血管造影が必須とされていましたが、前述の通り、マルチスライスCTやMRIの登場によりその必要性はなくなりました。現在では逆にCTやMRIから血管の構築ができるようになっています(図3)。
腫瘍生検
良性腫瘍が疑われる場合、腫瘍生検を行うことがあります。生検での診断効率は、約70%とされていますが、実際に生検を行うケースは非常に少ないです。これは、出血や腫瘍の播種をおそれてのことですが、実際には合併症はほとんど起こっていません。最近、小さな腫瘍に対して凍結療法やラジオ波焼灼術による治療が臨床試験されており、この場合には治療前に腫瘍生検が施行されます。
病理組織学的分類
腎がんには様々なタイプがあり、それぞれに特徴を持っています。
1)淡明細胞がん
腎がんの75-85%を占めています。von Hippel-Lindau (VHL)病に発生する腎がんはこのタイプです。VHL病とは1900年代初めドイツの眼科医von Hippelによって網膜の血管芽腫が報告され、その後スウェーデンの病理学者Lindauが40例を集めて報告、VHL病と命名されました。網膜の血管芽腫と小脳・脊髄の血管腫、腎・肝・膵などに多彩な病変(嚢胞・血管腫・腺癌)を合併することで有名です。腎がんの合併は35-83%とされています。このVHL病から発見されたVLH遺伝子はその後の研究で、自然発生腎がんにおいても40-50%で異常が認められることがわかりました。
2)乳頭状腎細胞がん
腎がんの10-15%を占め、VHL病以外の家族内発生(遺伝)に多いタイプです。また、最近の研究でタイプ1とタイプ2に細分類されており、タイプ2の予後は悪い事が知られています。
3)嫌色素性細胞がん
腎がんの5-10%を占め、一般に予後良好とされています。
4)紡錘細胞がん
頻度は非常に少ないのですが予後不良です。
5)その他のタイプ
嚢胞随伴性腎細胞がんや集合管がん(ベリニ管がん)があります。集合管がんは紡錘細胞がん同様非常に予後不良です。
【臨床病期】
UICCによる2002年TNM分類を示します。
1)T分類 T1:癌が腎被膜内で、かつ最大径7cm以下
T1a:腫瘍が4cm以下
T1b:腫瘍が4cm< ≦7cm
T2:癌が腎被膜内で、最大径7cmを超える
T3:癌が主要静脈あるいは副腎あるいは腎周囲組織に進展しているが、ゲロータ筋膜(腎筋膜)内にとどまるもの
T3a:副腎あるいは腎周囲、腎門部への浸潤
T3b:腎静脈あるいは横隔膜以下の下大静脈への進展
T3c:横隔膜より上の下大静脈への進展あるいは下大静脈壁への浸潤
T4:癌がゲロータ筋膜を越えて浸潤
2)N分類 N0:リンパ節転移なし
N1:1個の所属リンパ節転移
N2:2個以上の所属リンパ節転移
3)M分類
M0:遠隔転移なし
M1:遠隔転移有り
TNM分類に基づく(病期分類)
腎がんの予後(5年生存率)は1期で90%以上、II期で75-95%、III期で59-70%、IV期では10%とされています。腎がんの特徴として、10年以上経過しても再発転移を来たし、癌死する症例があることが知られています。臨床病期以外の予後因子としては、組織学的悪性度(grade)があり、悪性度が高いほど予後は悪くなります。腎がんの組織型による予後の差はないとされていますが、紡錘型とベリニ管癌は別格でこれらの予後は非常に悪いのです。その他の予後因子として、全身状態(PS)や症状の有無(血尿など)、発熱、貧血などがあります。IV期の5年生存率は約10%であるがその中でも、Karnofsky PS<80%、LDH>正常上限の1.5倍、補正Ca値>10 mg/dl、ヘモグロビン<正常下限、腎摘をしていない、を予後不良因子とし、これらの因子が3個以上あると生存期間中央値は7ヶ月と報告されています。ちなみに予後不良因子が1個までだと生存期間中央値は26ヶ月、2個だと14ヶ月です。
→→→→→→→入院時説明を 
|